監査法人に入所する前は、監査というものはクライアントの一切の数字の間違いや粉飾は許されないものと思って監査業務をするもんだと思っていました。

でも、実際は1円単位まですべてきっちりと監査をするわけではないんですよね。

そこで、監査においては「リスクアプローチ」という概念が非常に重要になってきます。

監査がおおざっぱなのはリスクアプローチの観点によるもの

どの監査法人も普段の業務においては、このリスクアプローチにもとづいて監査業務を行っています。

会計士試験でも出題された言葉かもしれませんけど、このリスクアプローチとは一体どういう意味なのでしょうか?

それは、一言でいうと「リスクの高い部分を重点的に監査していく」ということです。

逆に言うと、リスクの低い部分の監査はおおざっぱでもいいということになります。

この「リスク」というのは、色んな意味を持ちます。

そのクライアントが所属する業界によってもリスクが違いますし、規模やビジネスモデルによっても異なってきます。

特に一番大きなリスクの違いは、勘定科目によるものですね。

その企業の財務諸表を見ると、貸借対照表や損益計算書には色んな勘定科目が並んでいますが、実務においてはどの勘定科目重点的に監査するか、どの科目には手を抜くかというのをまず決めることになります(インチャージの人が判断します)。

例えば、監査するにあたって最重要とされるのは売上や売掛金などの売上まわりの勘定科目です。

「売上」というのは企業活動を評価するにあたって一番重要な科目になるので、企業が粉飾をする際に一番操作されやすい科目なので通常はこの売上は一番重要な科目として扱われます。

なので、こういった重要な科目はインチャージ自らが担当したり、経験の多いシニアスタッフなどに割り振られたりします。

逆に、本業とは関係ない営業外収益や費用などは売上ほど重要な科目とは扱われないので、経験の浅いスタッフレベルに割り当てられたりすることがあります。

要するに、リスクアプローチとは、粉飾に使われそうな科目に重点を置いて監査するという意味でもありますね。

また、冒頭では1円単位までにこだわって監査することはないと言いましたが、「現預金」以外の勘定科目においてはそれが当てはまります。

実際に現場で監査をする際は、企業規模やその年の売上、利益の状況などを加味して「重要性の基準値」というのを決めます。

試験でも「重要性(Materiality)」という言葉でよくでてきましたが、実務でもちゃんとこの重要性は毎期監査をするたびに決められます。

例えば、ある企業の重要性の基準値が20万円だとすると、実務をする際にはざっくりいうと金額が20万円以下の取引や勘定科目等は監査の効率上の観点から無視することが多いです。

もちろん、あるべき姿としては1円単位まで見逃さずすべての取引をチェックすることが理想なのですが、そんなことをしていてはいつまで経っても監査が終わりません。

「誰のために監査をするのか?」ということを考えると、「投資家が財務諸表を見た時にその投資の判断を誤らせないようにする」というのが監査の一番の目的です。

なので、例えばリスクアプローチにもとづいて20万円以下の取引のチェックを無視して売上げが1億円として世間に公表したとしましょう。

ここで、実際には知られていない数字の間違いが1万円あって本来のその企業の売上が9999万円だったとしても投資家のその企業の株式の売買判断にはほとんど影響しないでしょう。

「売上の金額が9999万円だったらこの会社の株は買わなかったよ~!」なんて思う人はまずいないでしょう。

監査も報酬と時間の兼ね合いがあります。

企業が決算発表をするまでに自分たちが監査を終えなくてはなりません。

なので、一定以下の金額の取引は基本的にはチェックしないでもっと金額の大きな取引や勘定科目に力を注いで適正意見を最終的に出すというのが監査の仕方なのです。

もちろん、重要性の基準値というのは目安でもあるので必要と判断したら一定金額以下の取引であってもチェックすることはあります。

「現預金」なんかは、まさに金そのものなので現金を数えていて1円合わないとなった場合、そこはすぐにパスせずに極力原因を追究していくことが多いです。

そんな感じなので、意外と監査ってものはおおざっぱだったりします。

現場でも、「あれ?なんかこの数字、クライアントからもらった証拠資料と合わないんですけど基準値以下なんで無視していいですよね?」なんてインチャージに言ったりする場面も多いです(笑)

で、こういうことを言うと「おい!監査では適正意見を出しているのにある程度の間違いは見逃していたのか!?ちゃんと監査してね~んか!?」なんていう声がでてきそうですけど、ちゃんとそのことについては監査報告書で触れているのですよ。

どっかの企業の有価証券報告書の監査報告書でも見てみましょう。

そこでは、監査において数字の間違いや粉飾は一切なかったとは一言も書いていません(笑)

監査上問題なかったという、「合理的な確証を得た」という表現を使っています。

ようするに、監査の効率を加味して投資家の判断に大きな影響を与えないということを保証しているわけで、1円の間違いもなかったとは会計監査においては断定していないのです。

リスクアプローチと重要性の基準値という言葉、監査の基本はこれにつきます。

監査業務の成果物

監査業務と一言でいっても、数多くの仕事があります。

勘定科目毎に不正や誤謬の検討をしたり、世間に公表するための計算書類や有価証券報告書の記載内容をチェックしたり、監査報告会に出席して監査結果と改善点などを指摘したり、実査に行って現金や在庫を現場に確認しに行ったりと、色んな業務がそれぞれの人に割り振られるわけです。

そして、それら色々と監査結果を結論づけるために過程で行われたすべての業務は「調書」という成果物になります。

なので、監査業務とは、「調書を作成する」ことだと思ってもいいです。

何をするにも、原則「調書」として整えた上で、その業務が成果物として認められることになります。

そして、紙調書でも電子調書でも、調書というのは必ず決まったルールがあります。

それは、自分に割り振られた仕事が現金を数える実査だったとき、実査した結果を調書として成果物に仕上げる必要があります。

その際には、「何のために実査をするのか」「実査にあたってどういう手続きを行ったのか」「手続きを行った結果はどうだったのか」を必ず記載する必要があります。

一般的に言うと、調書には「目的」「手続き」「結論」の3つが記載されている必要があります。

これが記載されていないものは調書として認められません。

今回挙げた現金の例でいうとこんな感じになります。

目的:帳簿に記載されている現金の金額と、実際に金庫に入っている金額が一致するかを検証する
手続き:金庫の現金を数え、帳簿の金額と照らし合わせた
結論:特に異常は発見されなかった

上記の感じになります。

まあ、実際はもっと厳密な用語を使ってるので記載内容は雰囲気として捉えていただければと思います。

「こんなの書くまでもないよ~」っていう調書もありますけど、それでも調書として成果物にするためには上記の3つを必ず記載します。

そして、最後に自分の押印かサインをすれば立派な調書の完成です。

実務的な内容になりましたけど、これは監査の基本中の基本なので、覚えておいて損はないと思います。

特に、法人によってはたいした研修も受けられずに現場に放り出される場合もありますからね~。

自分もそうでしたので、最初は上記3つを記載しないでよく注意されました。

まあ、ちょっと実務的なお話になりましたけど、「何のためにやるのか?」「何をやったのか?」「結果はどうだったのか?」というのは監査だけにとどまらず、よく考えたら普段の行動や仕事でも大事なことなので、この3つはちゃんと意識するようにしてください。